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42話 家族愛

Auteur: ニゲル
last update Dernière mise à jour: 2025-05-17 10:52:26

「ん……んぅ?」

夜風が髪を揺らすが、同時にやんわりとした暖かさが首下から膝を覆う。

「あれ……? ここは?」

「おはよう。起きたみたいだね」

私のすぐ側には生人君が座っており、私にはふわふわの毛布がかけられている。

「やっと起きたようだな。イクテュスは生人が倒してくれたぞ」

「えっ……あの人型も!?」

「いや人型は良いところまでいったが取り逃してしまったらしい……けどどうしたんだ? そんな焦って?」

「な、なんでも……ない」

私は言葉を飲み込み辺りを見渡す。近くに波風ちゃんが同じく毛布をかけられ寝ているが、健橋先輩と橙子さんは居ない。

「二人ならもう帰ったぞ。無理やり抜け出してきた形だったし、それに橙子はコピー人形を使う暇すらなかったからな」

「そう……それは分かったけど、怪我は……治してくれたんだね。波風ちゃんは大丈夫なの?」

「特に問題ない。今は寝ているだけだ。すぐに目を覚ますと思うぞ」

その言葉と彼女の安らかな寝顔と寝息で私は安心しホッと一息つく。

「あの……生人……さんって呼んだ方がいいです……かね?」

「あぁいや前みたいに君呼びでもなんでも構わないよ」

「じゃあ生人君……その、さっきは決めつけて攻撃しちゃってごめん……」

いくら相手もこちらの力量を測る目的があったとはいえ私は明らかに敵意を持って手を出してしまった。そのことに違いはない。

「いやあれはボクが挑発したのが悪いんだし謝らなくていいよ。それよりボクもその……ごめんね? 手加減したとはいえ痛かったでしょ?」

生人君は昼にこの場所で会った時の無邪気さと子供らしさを含んだ笑顔を向けてくれる。こっちが彼の素なのだろう。

「お互い様ってことで……傷も治ったし」

傷はキュアリンのおかげか完璧に治っている。

「うぅん……?」

数分もしない内に波風ちゃんは目を覚まし、困惑しているところをキュアリンが事情を話してくれる。

「ふぅ。とにかくお母さん達の所まで戻らないときっと心配してる」

「うんそうだね……生人君はどうするの?」

「ボクはキュアリンと一緒に帰ってるよ。ここもイクテュスがいるかもって調べに来てたんだし、またね」

生人君はキュアリンと共にこの場から立ち去っていく。私達も心配する人が居るので山を降りみんなの元に戻る。

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